林千恵子は彼が自分に優しくしてくれるのを見て、彼への態度が親密になっていった。
以前なら、椎名佳樹はすぐに林千恵子を突き放していただろうが、今回は違った。むしろ、少し受け入れる様子を見せた。
椎名佳樹は松本雫を直接見つめてはいなかったものの、注意は完全に彼女に向けられていた。女性は終始無関心で、他人事のような態度を取っていた。椎名佳樹が林千恵子が手渡した梅干しを口に入れた時、なぜか心の中に虚しさが広がり、急につまらなくなった。店員を呼んで会計をしようとした瞬間、突然誰かが自分のテーブルの前に立った。
椎名佳樹は反射的に顔を上げ、唇の端がすぐに上がった。「兄さん...」
椎名佳樹の「兄さん」という言葉が完全に出る前に、突然襟元を来栖季雄に掴まれ、予期せぬ力の強さに抵抗する力が出なかった。