第507章 嫁げないなら、僕が娶ろう(7)

林千恵子は彼が自分に優しくしてくれるのを見て、彼への態度が親密になっていった。

以前なら、椎名佳樹はすぐに林千恵子を突き放していただろうが、今回は違った。むしろ、少し受け入れる様子を見せた。

椎名佳樹は松本雫を直接見つめてはいなかったものの、注意は完全に彼女に向けられていた。女性は終始無関心で、他人事のような態度を取っていた。椎名佳樹が林千恵子が手渡した梅干しを口に入れた時、なぜか心の中に虚しさが広がり、急につまらなくなった。店員を呼んで会計をしようとした瞬間、突然誰かが自分のテーブルの前に立った。

椎名佳樹は反射的に顔を上げ、唇の端がすぐに上がった。「兄さん...」

椎名佳樹の「兄さん」という言葉が完全に出る前に、突然襟元を来栖季雄に掴まれ、予期せぬ力の強さに抵抗する力が出なかった。

林千恵子はこの突然の出来事に驚き、思わず立ち上がった。「何をする...」

林千恵子の言葉が終わる前に、来栖季雄の冷たい視線が彼女に向けられた。まるで深い恨みでもあるかのように、怒りを含んだ声で言った。「私に話しかけるな。耳が汚れる」

林千恵子は恐怖で体が震え、言おうとした最後の二文字は喉の奥で消えてしまった。

来栖季雄の言葉は容赦なかった。幼い頃から甘やかされて育った林千恵子は、このような侮辱を受けたことがなかった。しかし、この美しくも恐ろしい男性の前では、恐怖しか感じられず、反論する勇気もなく、下唇を噛みながら、目に涙を溜めた。

「兄さん、何をしているんですか?」椎名佳樹は林千恵子のことは好きではなかったが、来栖季雄が林千恵子に対して嫌悪感まで示す態度を見て、小声で尋ねた。

来栖季雄は椎名佳樹の質問を完全に無視し、冷たい表情のまま、全身から不気味な寒気を漂わせながら、彼を引っ張ってトイレの方向へ向かった。

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鈴木和香は来栖季雄が注いでくれたお茶を飲み終え、しばらく待っても来栖季雄が戻って来なかったので、携帯を取り出して電話をかけた。すると、個室の中で着信音が鳴った。

鈴木和香は音のする方を見ると、来栖季雄の携帯が隣の椅子に置かれているのを見つけた。

鈴木和香は待ちくたびれて、立ち上がって個室を出て、階下へ来栖季雄を探しに行った。