二人は同時に一瞬固まり、約三十秒後、また同時に口を開いた。
来栖季雄は「何かあったの?」と言った。
鈴木和香は「どうしたの?」と言った。
鈴木和香がまた「あなたから話して……」
来栖季雄も「あなたから……」
二度続けての息の合った展開に、二人とも言葉を最後まで言い切れず、思わず微笑んでしまった。
しばらくして、来栖季雄は紳士的に再び口を開き、「やはり、あなたから先に話してください」と言った。
鈴木和香は少し黙った後、来栖季雄と争うことなく、微笑みを浮かべ、両手をきちんとテーブルの上に置き、姿勢正しく来栖季雄を見つめて「じゃあ、遠慮なく話させていただきます」と言った。
来栖季雄は軽く「うん」と返事をし、箸を置いて、鈴木和香から目を離さずに見つめた。
鈴木和香は目の前の来栖季雄の端正な顔立ちを見て、喉が締め付けられるような感覚に襲われ、息ができなくなった。心の中で何度も考えていた言葉が、まだ口に出す前から、悲しみと辛さが先に彼女を飲み込んでいった。