来栖季雄は机の上に山のように積み重なった書類を一瞥もせずに言った。「仕事は終わった」
ほとんど間を置かずに、来栖季雄は続けて尋ねた。「どうしたの?」
「別に……」電話の向こうの鈴木和香は何か言いたいことがあるようで、少し躊躇した後、こう言った。「来栖季雄、もし暇なら、ガーデンホテルの最上階レストランに来て。私が夕食を奢るわ」
「わかった、すぐ行く」
来栖季雄は電話を切ると、パソコンの電源を切る余裕もなく、上着を手に取って事務所の出口へ向かった。
秘書が丁度来栖季雄を探しに来ていたが、ノックする前にドアが勢いよく開き、驚いて一歩後ずさりしながら慌てて声を上げた。「来栖社長」
来栖季雄は秘書の言葉を全く気にせず、足早にエレベーターへ向かった。
秘書は小走りで彼の後を追いながら、「来栖社長、今夜の会食が……」