来栖季雄は突然何か急用ができたかのように、急に立ち上がった。鈴木和香は驚いて話を途中で止め、首を上げて彼を見つめながら尋ねた。「どうしたの?」
来栖季雄は冷静に洞窟の外を指差して言った。「ちょっとトイレに行ってくる。」
そして鈴木和香の反応を待たずに、洞窟の入り口から出て行った。
来栖季雄は適当な方向を選び、約五十メートルほど早足で歩いてから立ち止まった。
急いで出てきたため、まだ食べかけの果物を手に持っていたので、それを口にくわえ、ズボンのポケットから携帯電話を取り出した。電源ボタンを押してみると、心の中では完全に壊れていることを願っていたのだが、期待に反して画面が奇跡的に点灯し、起動した。さらには数通のメッセージが届いており、連続して着信音が鳴り響いた。
来栖季雄は心の中で思わずつぶやいた。なんてしぶとい携帯だ。こんなに長時間水に浸かって、一晩電源が切れていたのに、まだ起動するなんて。