第556章 13年間愛してた(26)

来栖季雄は助手の言葉を無視した。

助手は続けて言った。「社長、こんなに長くお付き合いしていますが、こんなにロマンチックな一面があるとは知りませんでした!」

来栖季雄はようやく顔を上げ、周りの景色を見渡した。おそらく自分の緊張を和らげたかったのだろう。深く息を吸い、穏やかな声で言った。「和香にだけロマンチックなんだ。」

「社長、和香様がいらっしゃったら、どうなさるおつもりですか?」

「まず午後の態度について謝罪して、それからこのボイスレコーダーを取り出して、聞かせるんだ...」来栖季雄は言いながら、ポケットからボイスレコーダーを取り出し、手の届く場所のテーブルに置いた。そして頭の中で手順を確認しているようで、緊張が少し和らぎ、口調もずっと落ち着いて滑らかになった。「和香はこの録音を聞いたら、きっと悲しむだろう。長年尊敬してきた目上の人が、こんなことをしていたなんて思ってもみなかっただろうからね。だから慰めてあげないといけない。」

「それから支配人に料理を運ばせて、和香と乾杯して、まずバレンタインの祝福を...」来栖季雄はここまで話して、目の前にこれから二人で過ごす光景が浮かんでいるようだった。

彼女に祝福の言葉を贈った後、周りに設置された電飾に、彼女に伝えたい言葉を一つずつ浮かび上がらせるつもりだった。

彼女がすべて読み終えたら、真剣な眼差しで見つめて、自分の気持ちを伝えるつもりだった。

もし彼女が受け入れてくれたら、大切に愛していく。もし受け入れてくれなくても、彼女が心を動かされて受け入れてくれるまで、ずっと愛し続けるつもりだった。

来栖季雄はここまで考えて、唇の端に薄い笑みを浮かべた。その表情が端正な顔立ちを一層優しく見せていた。

助手は傍らで夢見るような口調で言った。「和香様が社長の告白を受け入れられたら、次は適当な日を選んでプロポーズして、それから結婚して、そのあとは可愛い赤ちゃんが...」

来栖季雄は、まだ告白もしていないのにそんなことを考えるのは早すぎると分かっていたが、それでも助手の言葉に導かれるまま、頭の中でその光景を思い描いてしまった。想像するだけでこんなにも幸せな気持ちになれた。

しばらくして、来栖季雄は腕時計を見上げた。七時二十五分になっていた。咳払いをして言った。「あと五分で和香が来る。」