第578章 知られざる事(8)

「たぶん、彼は本当にあなたを失いたくなかったんでしょう。最後には夏美様のところへ行ったんです。」

鈴木和香はここまで聞いて口を開きかけた。鈴木夏美は彼女が当時昏睡状態で入院していたことを知っていたはず。来栖季雄が彼女を訪ねていたのなら、それを知っているはずなのに、なぜまだ彼女に怒っているのだろう?

鈴木和香の頭の中で疑問が渦巻いているうちに、アシスタントの声が再び聞こえてきた。「夏美様は来栖社長に教えなかったんです。ほら、来栖社長は鈴木家の前で三日三晩待ち続けたんです。」

鈴木夏美は来栖季雄に彼女の居場所を教えなかった。もし教えていたら、今頃彼を見つけられないなんてことにはならなかったのではないだろうか?

鈴木和香の目には最初に驚きが浮かび、次に信じられないという表情に変わり、最後には傷ついた表情へと変化した。