第501章 嫁げないなら、僕が娶ろう(1)

電話を切り、来栖季雄は秘書の「来栖社長」という声を無視して、手を上げてタクシーを止め、乗り込んだ。秘書に「部屋のチェックアウトと荷物の整理を頼む」と言い残し、運転手に「空港まで」と告げた。

車外に立っていた秘書は、焦りながら「来栖社...」とまた声を上げたが、最後の音を発する前にタクシーのテールランプが一瞬光り、車は車の流れに紛れ込んでいった。

秘書は足踏みをし、少し困ったように髪をかきむしり、後ろのホテルを振り返った後、昨夜突然来栖季雄によってグアム出張を代わられた間宮総監に電話をかけることにした。

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空港への道中、来栖季雄は鈴木和香に何度も電話をかけたが、全く応答がなかった。そして、続けて何通もLINEを送ったが、返信はなかった。

おそらく先ほど聞いたニュースの影響で、来栖季雄は鈴木和香が椎名佳樹のことを既に知っているのではないかと直感的に思った。