第551話 13年間愛してた(21)

彼女は知らなかった。来栖季雄が幼い頃、こんな経験をしていたなんて。

鈴木和香の心は微かに震え、言い表せない痛みが込み上げてきた。

執事は怒り心頭のようで、まだ来栖季雄を非難し続けていた。「まったく、下賤な母親から生まれた下賤な子供は…」

その言葉は来栖季雄に向けられたものだったが、鈴木和香の心は深く傷ついた。まるで無数の針が心臓を刺すような、骨身に染みる痛みを感じた。

鈴木和香は突然、彼らが来栖季雄のことを話し合うのを聞きたくなくなった。立ち上がってトイレに行くという口実を作り、寝室を出た。ドアを閉める時、背後から執事の憤慨した声が聞こえてきた。「若様はこの何年間も、あの雑種に優しくしすぎでした…」

鈴木和香は階下のトイレに向かった。トイレに入る前、椎名家の若い女性従業員が電話をしているのが聞こえた。どうやら夫と七夕を過ごすための約束をしているようで、夫が家で夕食を用意していて、何が食べたいか聞いているらしかった。彼女は携帯を持ちながら、食べたい料理の名前を優しい声で伝えていた。