「麗景楼」の料理は素早く運ばれてきた。上品な食器に盛られた淡白な料理は、食欲をそそる見た目だった。
アシスタントは紙袋から箸を取り出し、鈴木和香に手渡した。「これは全部あなたの好きな料理ですよ。食べ終わってから話しましょう」
鈴木和香は箸を受け取らず、唇を動かして何か言いかけたが、アシスタントが先に彼女の質問を代弁した。「きっと、私がなぜあなたの好きな料理を知っているのか気になっているでしょう?」
鈴木和香は口角をわずかに動かし、言おうとした言葉を飲み込んだ。
「来栖社長から聞いたんです」アシスタントは軽く笑い、グラスを手に取ってもう一口飲んでから、鈴木和香の方を向いて言った。「まずは食事をしましょう。食べ終わってから話します」
そう言いながら、アシスタントは箸を取り、自ら食べ始めた。
鈴木和香はアシスタントをしばらく見つめた後、箸を取り、黙々と食事を始めた。
全て彼女の好きな料理だったが、全く食欲がなく、ほとんど無理をして食べていた。
約30分後、鈴木和香はついに箸を置き、顔を上げると、アシスタントは彼女よりも早く箸を置き、窓の外を見つめて何かを考えているようだった。目の前のビール瓶2本は既に空になっていた。
アシスタントは鈴木和香が箸を置く音に気づき、振り向いて尋ねた。「食べ終わりましたか?」
鈴木和香は軽くうなずいた。
アシスタントは手を上げて店員を呼び、さらにビールを2本注文した。ビールが運ばれてくると、グラスに注いで一気に飲み干し、ポケットから携帯電話を取り出して鈴木和香に差し出した。
鈴木和香の目に驚きの色が浮かんだ。
「来栖社長がどこに行ったのか知りたいんでしょう?携帯を見ればわかります」アシスタントはそう言うと、頭を下げて自分にもう一杯酒を注ぎ、大きく一口飲んだ。
鈴木和香はアシスタントの携帯画面をタップすると、画面が明るくなり、アシスタントが見せようとしていたのがメールだということがわかった。
来栖季雄から送られたものだった。
メールの冒頭は、環映メディア株式会社の今後の業務の担当者に関する内容で、それらの内容の最後に、来栖季雄は環映メディアの運営を当面間宮副社長が代行すると述べていた。
メールはそこで終わらず、その下にはアシスタントへの個人的な長文のメッセージが続いていた。