鈴木和香は「神経を鎮める」という言葉を特に強調して言った。彼女がその言葉を口にする時、視線は終始赤嶺絹代の顔に向けられていた。彼女は自分の言葉が発せられた時、赤嶺絹代の当初戸惑いを見せていた目の奥に、気づかれにくい動揺と驚きが浮かんでいるのをはっきりと見て取った。
鈴木夫人は赤嶺絹代が鈴木和香に燕の巣を贈ったことを知っていた。和香が自ら食べ物をねだるのを聞いて、実の母親ではないものの、幼い頃から見守ってきた関係から、少し甘やかすような口調で言った。「絹代さん、和香ったら、あなたに甘やかされすぎて、椎名家を自分の家のように思っているわ。食べたいものを何でも欲しがって」
「母は和香のそういうところが大好きなんです」椎名佳樹が笑いながら言葉を継ぎ、向かいに座っている赤嶺絹代に確認を求めた。「そうでしょう、母さん?」