第610章 私の愛する人、久しぶり(20)

来栖季雄はずっと奥様の夕食に付き合い、古い時代劇を一話見て、家政婦が奥様の入浴と就寝の世話を終えてから、ようやく帰ることにした。

来栖季雄がエレベーターを出た時、時計を見ると、すでに夜の10時だった。

マンションを出ると、来栖季雄は雪が降っていることに気づいた。しばらく降っていたようで、マンション周辺のヒイラギには薄っすらと白い雪が積もっていた。

来栖季雄は階段を降り、白い雪を踏むとキュッキュッという音が鳴った。

マンションの道端まで歩き、車の鍵を取り出してロックを解除すると、少し離れた車のライトが前後に点滅したのを確認して、そちらへ歩き出した。

来栖季雄が自分の車の前まで来た時、横から名前を呼ばれた。「来栖社長」

来栖季雄は一瞬立ち止まり、振り向くと、自分の秘書が道路の向かい側の街灯の下に立っているのが見えた。しばらく待っていたようで、被っていた帽子には白い雪が積もっていた。