「会社はどうするんですか?」
「会社の運営は順調じゃないのか?」
来栖季雄の反問に、秘書は言葉に詰まった。しばらく間を置いて、鈴木和香から電話で繰り返し言われた内容を思い出し、こう尋ねた。「来栖社長、いつ出発されるおつもりですか?」
来栖季雄は少し躊躇してから答えた。「まだ決めていない」
「来栖社長、君のためにご指示いただいたことは、すべて実行いたしました……」
来栖季雄は「君」という言葉を聞いて、何も言わなかったが、グラスを握る手に力が入った。
秘書は来栖季雄から鈴木和香にそれらのことを話さないように言われていたのに、その意に反してすべてを話してしまったことを思い出し、少し後ろめたく感じながらその話題を避けて続けた。「来栖社長、当時君のことがあって、突然いなくなられたんですか?」