昨夜起きたことが、早送りの映画のシーンのように、彼女の脳裏で一コマ一コマと過ぎ去っていった。その後、鈴木和香は寝室を見回してみると、来栖季雄の姿が全く見当たらなかった。本能的に来栖季雄が逃げたと思い込み、「ばっ」とベッドから飛び降り、自分が全裸であることにも気付かないまま、さっと寝室を飛び出した。
リビングの窓際に立っていた来栖季雄は、背後でドアが開く音を聞き、無意識に振り向いた。鈴木和香の裸体を目にした彼は、まず眉間にしわを寄せ、すぐに背を向けて、硬い声で言った。「服を着てから出てきなさい。」
来栖季雄にそう言われて、鈴木和香はようやく自分が何も着ていないことに気付き、顔が一瞬で真っ赤になり、急いで寝室に戻って、耳をつんざくような音を立ててドアを閉めた。
鈴木和香はシャワーを浴び、バスローブを纏って出てくると、ベッドの脇にタグの付いたままの新品の服一式が丁寧に置かれているのを見つけた。
きっと彼女より早く目覚めた来栖季雄が買ってきてくれたのだろう。
鈴木和香は髪を乾かし、適当に束ねて、服を着てから寝室を出た。
来栖季雄はすでにダイニングテーブルに食事を整然と並べており、ドアの音を聞くと、少し顔を上げて言った。「こっちに来て食べなさい。」そして自然に後ろの椅子に座った。
鈴木和香は近づき、まず来栖季雄の表情を観察した。怒りも追及の様子も見られなかったため、心が少し落ち着き、座った。
来栖季雄は鈴木和香に箸を渡し、食事を促した。
鈴木和香は完全に安心し、うつむいて食事をしながら、心の中で馬場萌子のアドバイスは本当に頼りになると思った。怒っていた来栖季雄が、こんな方法で落ち着くなんて。
長時間眠っていた鈴木和香はお腹が空いており、気分も良かったため、食欲旺盛で美味しそうに食べていた。
傍らに座っていた来栖季雄は、箸を二、三度動かしただけで置き、椅子の背もたれに寄りかかり、食事をする鈴木和香を見つめていた。