彼女は彼にとって毒薬のような存在だった。命を落とすと分かっていても、近づきたい衝動を抑えられなかった。
今のように、彼女に深く傷つけられ、体中傷だらけになっているのに、彼女が一度泣き、一滴の涙を流し、一夜を共にすれば、彼はまた彼女の中に溺れていきたくなる。
認めざるを得ない。彼女は本当に手強い。いつも簡単に彼の命脈を握り、彼の心を揺さぶることができる。
この世界になぜ鈴木和香のような女性が存在するのか、彼には永遠に理解できなかった。彼女の何気ない一つの仕草で、何の防備もなく、いつでも自分の世界が覆されてしまう。
今、彼は冷静だった。自分の心の底にある最も本当の思いを、はっきりと見つめていた。
彼女が彼の尊厳を徹底的に踏みにじり、彼は彼女を愛する資格がないと言い、別の男のために彼を許さず、彼に対してあんなにも残酷で無情で、一歩一歩彼の全てを覆し、彼の底線に触れたとしても、それでも彼は彼女に未練があり、彼女と一緒にいたいと思っていた。
彼は分かっていた。ずっと彼女には手の打ちようがなかった。だから当時、彼女に見捨てられた彼は、一人で異国の地へと向かったのだ。
窓の外は夜の色が深く、灯りがぼんやりと揺れていた。
来栖季雄はタバコを次々と吸い続け、彼の心の中でも絶え間なく葛藤が続いていた。
あまりにも深く傷つけられ、最も基本的な自信と勇気を失っていた。
今の彼女の様子は、明らかに彼と一緒にいたいように見えるのに、彼はそういう方向に考えることができなかった。
空の果てから地獄へ落ちるような落差を、彼は極端に恐れていたからだ。
もう二度と、三度と、あのような生きる価値もないような過程を経験したくなかった。
誰も知らない。当時、彼が彼女を愛することを諦めた時、どれほどの苦しみを経験したのか。また、誰も知らない。彼がどれほどの眠れない日々を重ねて、ようやく自分に諦めることを納得させたのか。
来栖季雄はそこまで考えると、少し目を伏せ、今タバコを挟んでいる黒い時計バンドの手首を見つめた。
心は灰のように冷え切り、そしてまた燃え上がる。
二つの選択肢。しかし、どちらを選ぶべきか分からなかった。