「行きましょう」鈴木和香は明るい声で言い、来栖季雄が先に玄関へ向かうのを待って、彼の後ろについて歩き始めた。
ドアを出ようとした時、鈴木和香は何かを思い出したかのように、突然声を上げた。「ちょっと待って!」
来栖季雄は和香が気が変わったのかと思い、全身が震え、足を止め、少し険しい表情で振り返った。すると和香が置き物棚の方へとんとんと走り、引き出しを開けてしばらく探し、車のキーを取り出し、また急いで玄関に戻ってきた。顔を上げ、花のような笑顔で彼を見上げながら「行きましょう」と言った。
車のキーを取りに行っただけだったのか...来栖季雄は心の中でほっと息をつき、向きを変えて先に部屋を出た。
二人はエレベーターで地下駐車場まで降り、鈴木和香は車のキーを赤いアウディに向けて押すと、ロックが解除された。そして車のキーを来栖季雄に渡した。季雄は彼女の意図を理解したように、キーを受け取り、運転席のドアを開けて座った。