第646章 入籍（16）

彼女は、彼が全力を尽くしても近づきたいと願う温もりだった。

かつては、もうこの温もりを得る希望はないと思っていた。

しかし今、手に入れたものの、いつ失うかもしれないという不安が常にあった。

認めざるを得ない。彼女の口から発せられた「佳樹兄」という一言が、数ヶ月前の彼の惨めで見苦しい姿を一瞬にして暴き出した。

来栖季雄は一晩中寝室に戻らず、書斎のベランダで夜中ずっとタバコを吸い続けた。東の空が明るみを帯び、赤々と朝日が昇るまで。ようやく、長時間座っていたせいで硬くなった体を動かし、携帯を取り出して電話をかけた。

「ルーシー、私だ……寝てた？別に何でもないんだ。君は日本に来たがっていたよね？もし最近時間があれば、来てみない？……うん、君と話がしたくて……わかった。フライトが決まったら教えて。迎えに行くから……うん、じゃあね。」

電話を切ると、最初の陽光が窓から部屋に差し込んでいた。

鈴木和香はもうすぐ目覚めるだろう。寝室に戻らなければ。

来栖季雄は顔をこすり、携帯を握ったまましばらく座っていた。そして丸テーブルの上に山のように積もった吸い殻を片付けてから、寝室へ戻った。

すぐにベッドには上がらず、まず浴室で体を洗い、歯を磨き、タバコの臭いを落とした。それから静かにベッドに潜り込んだ。

鈴木和香は深い眠りについており、彼が去った時と同じように穏やかで美しい顔立ちをしていた。来栖季雄は瞳を揺らめかせ、彼女を再び抱きしめ、目を閉じた。

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鈴木和香と来栖季雄が入籍して三日目、年明け前に環映メディアが鈴木和香のために用意した映画『一目惚れ』が東京で正式に撮影を開始した。

『一目惚れ』という映画の投資額はそれほど大きくなく、キャスティングされた俳優も大物ではなかった。鈴木和香がヒロインを務め、主演男優は業界で長年活動しているものの大きなブレイクはしていないベテラン俳優だった。ただし、第二女優は知り合いの林夏音だった。

林夏音は『傾城の恋』の撮影後に出演禁止処分を受けてから、数ヶ月間全く仕事が入らなかった。しかし去年の十一月、様々な男性と関係を持っていた彼女が、どういうわけか映画投資家と関係を持つようになった。その投資家は本当に彼女のことを気に入ったらしく、『一目惚れ』という作品に大金を投資し、彼女に第二女優の役を獲得させた。