来栖季雄は彼女のその仕草を見て、表情にはあまり大きな変化はなかったが、目元は少し柔らかくなり、そして車のエンジンをかけ、ハンドルを回して道路に出た。
鈴木和香は頭を下げたまま、領収書や写真を整理していた。最後に真っ赤な結婚証明書を二つ取り出し、目の前に掲げて二度見てから、その一つを来栖季雄の前に差し出した。「はい、これがあなたの分です。」
運転中の来栖季雄は、横を向くと赤い表紙に印刷された「結婚証明書」の文字が目に入った。中には彼と彼女の名前が並んで書かれているのを思うと、ハンドルを握る手が一瞬制御を失い、車が左右に大きく揺れた。しかしすぐに直線に戻り、その後は落ち着いた様子で手を伸ばし、その赤い冊子を受け取った。
来栖季雄はそれを手に長く握りしめてから、自分のワイシャツの内ポケットに入れた。赤い冊子に温もりはないはずなのに、なぜか熱く感じられ、服と肌を通して、心の底まで熱くなっていった。