鈴木和香はタクシー運転手の声かけに対して、30秒ほどぼんやりしていたあと、慌てて財布を取り出して支払いをした。
タクシー運転手は車をフォーシーズンホテルの向かい側に停め、鈴木和香はタクシーが去った後、広い道路を挟んで、向かい側の煌びやかなホテルを一目で見つけた。
なぜか、彼女の心の中に緊張が走り、行きたいような、行きたくないような気持ちになった。
道路脇に5分ほど立ち尽くした後、ゆっくりとした足取りで歩道橋へ向かい、一歩一歩向かい側へと歩いていった。
鈴木和香が歩道橋を降りると、視線はホテル正面に停まっている一台の車に釘付けになった。
それは来栖季雄の車だった。
彼は本当にフォーシーズンホテルに来ていた……
すでに混乱していた心が、その瞬間、完全に崩れ去った。
林夏音の言っていたことは全て本当だったの?