鈴木和香はタクシー運転手の声かけに対して、30秒ほどぼんやりしていたあと、慌てて財布を取り出して支払いをした。
タクシー運転手は車をフォーシーズンホテルの向かい側に停め、鈴木和香はタクシーが去った後、広い道路を挟んで、向かい側の煌びやかなホテルを一目で見つけた。
なぜか、彼女の心の中に緊張が走り、行きたいような、行きたくないような気持ちになった。
道路脇に5分ほど立ち尽くした後、ゆっくりとした足取りで歩道橋へ向かい、一歩一歩向かい側へと歩いていった。
鈴木和香が歩道橋を降りると、視線はホテル正面に停まっている一台の車に釘付けになった。
それは来栖季雄の車だった。
彼は本当にフォーシーズンホテルに来ていた……
すでに混乱していた心が、その瞬間、完全に崩れ去った。
林夏音の言っていたことは全て本当だったの?
来栖季雄がフォーシーズンホテルに来たのは、外国人女性とデートするため?
でも、昨夜は確かに彼女と一緒にベッドで眠ったはず……朝も彼女が先に目覚めた時、彼は前夜と同じように彼女を抱きしめた姿勢のまま、隣で寝ていたのに。
鈴木和香は来栖季雄の車を長い間見つめた後、フォーシーズンホテルに視線を向け、頭を上げて最上階を見上げた。
最上階は、プレジデンシャルスイート……林夏音は部屋番号まで教えてくれた。本当に彼らは1002号室にいるの?
鈴木和香は唾を飲み込み、しばらく躊躇した後、結局足を踏み出してフォーシーズンホテルに入った。
フォーシーズンホテルは訪問客でも登録が必要だった。
来栖季雄の名前と身分証番号を告げれば、彼が1002号室に行ったかどうかわかるはず?
フォーシーズンホテルのフロントには二人だけが当直していて、おそらく夜遅かったせいで少し眠そうにしていたが、鈴木和香が近づくと、一人の男性スタッフがすぐに気を引き締めて、笑顔で優しく尋ねた。「ご宿泊のご予約でしょうか?」
鈴木和香は落ち着いた表情で首を振り、スマートフォンを取り出して来栖季雄の身分証番号を探し、フロントに向かって言った。「友人がこちらに滞在しているのですが、お会いしたくて。身分証番号は……」
鈴木和香が一連の番号を告げると、男性スタッフは素早くキーボードを叩いた。