来栖季雄は何故服を着ているの?
鈴木和香は眉をひそめた。更衣室から来栖季雄が出てくる気配がし、その後寝室のドアが開いて閉まる音が聞こえた。
寝室が再び静寂に包まれ、鈴木和香は不審に思いながら目を開けた。すると下階の玄関ドアが開く音が聞こえ、彼女は眉をより深くしかめ、思わず布団をめくってベッドから降り、バルコニーまで走って行った。窓越しに来栖季雄が自分の車に乗り込むのが見え、ヘッドライトが点灯し、すぐに車は向きを変えて敷地から出て行った。
来栖季雄はなぜ眠らずに、こっそり出かけたの?しかも真夜中に……
鈴木和香はバルコニーに立ったまましばらく呆然としていたが、すぐに寝室に戻り、携帯電話を手に取った。来栖季雄に電話をかけようとした瞬間、なぜか夕方に林夏音が自分に言った言葉が頭に浮かんだ。
フォーシーズンホテル……外国人女性……男女二人きり、同じ部屋で……1002号室、プレジデンシャルスイート……
これらの言葉は爆弾のように、鈴木和香の頭の中で次々と炸裂した。
鈴木和香の手が震え、携帯電話が指の間からすり落ち、真っ直ぐに彼女の足の指に落ちた。白い肌が瞬時に赤くなったが、まるで痛みを感じないかのように、彼女はそのまま硬直して立っていた。
来栖季雄は彼女をあんなに愛していたのに……どうして他の女性のところへ行くはずがあるの?
でも、結婚してこれだけ長い間、彼は一度も彼女に触れなかった。今夜だって、彼女が積極的に寄り添っても、彼は何もしなかった。それに、来栖季雄は午後にあんなに彼女を守ってくれて、食事の時だって、彼女が他の男性の話をしただけで嫉妬したのに、明らかに彼女のことを気にかけていた。
ダメ、ダメ、来栖季雄を信じなきゃ……彼がこうして出かけたのには、きっと理由があるはず……林夏音の言葉に影響されてはいけない……
鈴木和香は必死に頭を振り、目を閉じて深呼吸をし、心を落ち着かせようと努めた。心の中で何度も取り乱してはいけないと言い聞かせたが、そうすればするほど余計に妄想が膨らんでいき、最後には力が抜けたように、ベッドの端に崩れ落ちるように座り込み、空っぽの寝室を見つめながら、心の中は不安で一杯になった。
頭の中では真相を確かめに行きたい思いと、止めようとする思いが戦っていた。