第668章 携帯の中のメッセージ（18）

二人とも口を開くことなく、ただ静かに見つめ合っていた。

どれくらいの時間が経ったのか、来栖季雄の背後からハイヒールの音が聞こえ、英語の声が伴っていた。鈴木和香にはその声色が聞き覚えがあった。「季雄、誰が来たの？」

その声が落ち着くと同時に、鈴木和香は赤いドレスを着た金髪の女性が中から出てくるのを見た。そして一目で分かった。これはまさにアメリカで来栖季雄と食事をしていたあの女性だった！

もしかして、彼女は来栖季雄の子供を妊娠したことを知った後も諦めきれず、はるばる日本まで追いかけてきたのだろうか？

来栖季雄はルーシーが口を開いた瞬間に、やっと我に返った。

鈴木和香は寝ていたはずなのに、なぜフォーシーズンホテルまで来たのか？いや、深夜に、彼が異性と部屋にいるところを……

突然、来栖季雄の目に動揺の色が浮かび、少し緊張した様子で「和香……」と呼びかけた。

彼の言葉が終わらないうちに、彼の前で彫像のように立っていた鈴木和香は何かに刺激されたかのように、体が軽く震え、次の瞬間、急に手を伸ばして彼の手を掴んだ。まるで彼の次の言葉が自分を傷つけることを恐れているかのように、先に口を開いた。「来栖季雄、どうして一人で出てきたの？私、一人じゃ怖くて眠れないわ。」

こんな状況で、普通の女性なら激しく悩んだり、暴力を振るったりするのではないだろうか？

なぜ鈴木和香の反応はこんなにも異質なのか？

来栖季雄は彼女に対して何も悪いことをしていないのに、今は完全に戸惑っていた。「和香、聞いて、僕とルーシーは……」

ルーシーはこの光景を見て、少し困惑した様子で来栖季雄を見つめ、「季雄？」と尋ねた。

ルーシーのその声が鈴木和香を刺激したかのように、彼女は突然高い声で叫んだ。「来栖季雄、帰りたい！」

その言葉と共に、彼女は次の瞬間、来栖季雄の胸に飛び込み、彼の首に腕を回して、まるで少女のように甘えながら、小さな声で哀れっぽく言った。「帰りましょう、帰りましょう、来栖季雄、帰ってもいい？」

「ああ、いいよ」来栖季雄は続けて二度返事をし、鈴木和香の感情がまた制御不能になることを恐れ、上着を取りに行く時間さえ惜しんで、後ろのルーシーに「申し訳ない」と一言残しただけで、すぐに鈴木和香を抱き上げ、大股でエレベーターに向かった。