第750章 椎名佳樹の決断(9)

椎名佳樹はようやくライターから手を離し、その男を見つめ、彼が続けて話すのを待つ様子だった。

その男は椎名佳樹の手に握られた札束をちらりと見て、長い間躊躇していたが、もごもごと一言も発することができなかった。椎名佳樹がライターを押そうとする動きを見せると、彼は慌てて言った。「椎名坊さん、どうか冷静に。あのお金は椎名夫人が私に記者たちと結託して、桜花苑から君を騙して連れ出すための報酬として渡したものです...」

椎名佳樹の動きが止まり、彼の表情は一瞬で冷たくなった。「それで?」

「いいえ...」その男は一言しか言わないうちに、椎名佳樹はまばたきもせずに封筒から赤い紙幣を一枚取り出し、ライターで火をつけた。男は惜しそうに「やめて」と小さく叫んだが、燃える紙幣は椎名佳樹の手から落ち、瞬く間に灰となって地面に散った。