第751章 椎名佳樹の決断(10)

しかし今、彼は初めて知った。彼と母親の関係は、彼女がかつてしたことのせいで、今のような冷え切った状態になっているにもかかわらず、彼女はまだ少しも妥協する気配がなく、むしろ相変わらず冷酷で、一度手を出せば人の命を狙うほどだということを。

椎名佳樹はよろめいて後ろに二歩下がり、ある邸宅の低い塀に寄りかかった。塀から伸びたバラの枝が彼の首を刺したが、彼は痛みを感じないかのように、ただそこに立っていた。

午後に……和香があのレポーター達に囲まれて転んだのは、誰かの故意だったのだ。

午後に……彼が素早く腕を伸ばして防いだあのカメラも、誰かの故意だったのだ。

もし今日の午後、彼が桜花苑にいなかったら、和香の事故を目撃していなかったら、おそらく今の和香は去年の七夕に階段から転げ落ちた時と同じ結末で、意識不明のまま病院で救命処置を受けていただろう。