第797章 あの年の恋文(7)

田中大翔の表情は、すぐに冷たくなった。

彼は思い出した。今夜、ハリウッドのヒロイン選考会の決勝が終わりかけたとき、鈴木和香が妊娠したと言い、来栖季雄が興奮して舞台に駆け上がった時、鈴木夏美は元々彼に「和香が妊娠したの、私、叔母さんになるわ」と笑顔で言っていたのに、その表情がすぐに凍りついた。彼女は画面から目を離さず、CMに切り替わるまでじっと見つめていた。彼が何度も彼女を呼んでも、彼女は反応せず、最後には彼はイライラして立ち上がり、アパートを出て、団地の下を何周もしてから戻ってきた。

ある事柄については、彼はすでに目の当たりにし、心の中ではよく分かっていた。しかし、好きだからこそ、自分を抑え、何も知らないふりをして、馬鹿のように振る舞っていた。

しかし、一度や二度は我慢できる、三度や四度も我慢できる。彼はもう分からなくなっていた。これは鈴木夏美が来栖季雄と鈴木和香の結婚を知ってから、何度目の夜更けに季雄のことで眠れなくなったことだろうか。