来栖季雄がこの四文字を聞いた時、彼の目元が一瞬揺れた。彼は長い間黙っていたが、ようやく口を開いた。「実は、ずっとお前を責めたことはなかったんだ」
その簡単な一言で、椎名佳樹は不思議と目頭が熱くなった。彼ののどぼとけが二度上下に動き、そして言った。「わかってる」
彼は本当にわかっていた。彼がずっと自分を責めていなかったことを。
もし責めていたのなら、なぜ当時椎名グループを彼に任せただろうか。
もし責めていたのなら、なぜ遺産の受益者として彼の名前を書いただろうか。
実は彼も相手を責めたことはなかった。
たとえ当時、彼が椎名グループを買収した時、怒りに任せて彼のところへ駆けつけ、思わず酷い言葉を吐いたとしても、それは母親が怒りで倒れたのを知って、一時的な感情の爆発だっただけだ。
もし本当に彼を恨んでいたなら、自分の母親と吉江おばさんが彼の悪口を言っているのを聞いて、気分が悪くなることはなかっただろう。
もし本当に彼を恨んでいたなら、突然彼の過去の良さを思い出すことはなかっただろう。
二人の会話はわずか数言葉だったが、体育館全体の雰囲気は感動的で心を揺さぶるものに変わっていた。
しばらくして、椎名佳樹は手を上げて自分の目を隠し、目尻の湿り気を拭い去った。そして口を開き、いつもの軽い調子で言った。「おいおい、何やってんだよ?二人の大の男が、こんなにグズグズして」
誰がこんな雰囲気を作ったんだ?来栖季雄は「ふん」と二度笑い、椎名佳樹を横目で見たが、相手にしなかった。
横目で見られた椎名佳樹は、少しも腹を立てず、むしろ心身が軽くなったように感じた。
実は男と男の間では、問題解決はこういうものだ。女性のように長々と話す必要はなく、ほんの数言葉、一言の謝罪、一回の爽快なスポーツ、そうすれば全ての隔たりがこんなにも簡単に消えてしまう。
「聞きたいことがある」約五分後、来栖季雄が突然口を開いた。
「ん?」椎名佳樹は顔を横に向け、来栖季雄の端正な横顔に、まだ乾ききっていない汗が光っているのを見て、さらに付け加えた。「何?」
来栖季雄は淡々とした口調で、さも何気なく尋ねた。「和香が...昔、ラブレターを書いたことがあるのを知ってるか?」