墓石の写真は、椎名佳樹が自ら選んだものだった。赤嶺絹代が椎名一聡と結婚して間もない頃、二人が新婚旅行に行った時に一聡が撮った一枚の写真だ。
写真の中の絹代は、明るく輝くような笑顔を浮かべ、その眉目には自信に満ちた活気が溢れていた。
佳樹の記憶の中で、絹代がこのように笑ったことは一度もなかった。彼の前では慈愛に満ち、一聡との前では恩愛を装っていたが、二人きりになると冷たい視線を交わし、互いに無関心を装っていた。
佳樹が電話を受け、絹代が自殺したと聞いた瞬間、彼は本当に崩壊しそうになった。病院へ向かう車の中でさえ、昨夜やっと彼に話しかけてくれたのに、彼が出所を待つと伝えたのに、なぜ死を選んだのかと考えていた。
しかし、炎が彼女の遺体を灰に変えていく頃には、彼の心は不思議と静かになっていた。
母は確かに彼を責めなくなったが、同時に生きる意志も失っていたのだ。
彼女が「佳樹、自分のことをしっかり頼むよ」と言った時、実は既に自殺の準備をしていたのだ。
彼は思った。おそらく彼女がその言葉を口にした時、自分の人生をこんな悲劇的な道に進ませてしまったことを後悔していたのだろう。しかし、もう遅かった。彼女には戻る道がなく、一生憎み、一生恨み続けてきた彼女が、ある日突然その憎しみと恨みを手放せと言われても、どう生きていけばいいのか自分でもわからなかっただろう。だから彼女は死を選ぶしかなかった。
死んでしまえば全てが終わり、煙のように消え去り、全てが終結する。
そして、彼女は?ようやく解放されたのだ。
佳樹も心の中では理解していた。絹代にとって、生きるより死ぬ方が幸せだったのだと。
生きている間、彼女は毎日毎晩不幸だった。常に誰かを憎み、自分を悪魔のような存在に変えてしまい、人間でも幽霊でもない存在になっていた。
しかし、埋葬が終わり、佳樹が絹代の墓石の前にひざまずいた時、彼はやはり涙を抑えることができなかった。
どんなことがあっても、彼女は彼の母親だった。千の過ちがあったとしても、十月の胎を痛め、苦労して彼を育てた母親だったのだ。
彼女は一生の間、誰かを心から大切にしたことはなかったかもしれないが、彼だけには真心を込めて、心の底から愛情を注いでくれたのだ。
佳樹と松本雫が墓地を離れる頃には、既に午前五時を回っており、空からは霧雨が降り始めていた。