第32章 老狐狸の名は伊達じゃない

高級マンション。

鈴木知得留が去った後、北村忠がタバコを一本吸い、冗談めかして言った。「冬木若旦那は本当に奥さん思いだな。奥さんがいる時はタバコも吸わせないなんて。」

冬木空は北村忠に返事をせず、自分もタバコを一本つけた。

北村忠は煙を吐きながら、目の前の煙が漂うのを見て笑った。「お前が老狐だって言われるのは伊達じゃないな。」

冬木空は北村忠を一瞥した。

北村忠は意味深げに続けた。「手間暇かけずに手に入れたな。お前の性格からして、素性の分からない鈴木知得留を側に置くはずがないと思ってたんだ。なるほどね。」

「勝手な憶測はよせ」冬木空は冷たく口角を上げて言った。

「そうだな、誰がお前の考えを読めるってんだ?!」北村忠は呟いた。

子供の頃から一緒に育ってきたが、今でも冬木空が何を考えているのか分からない。

同い年なのに、冬木空は自分より百倍も狡猾だと感じる。こいつの脳細胞は普通の人間とは違う構造をしているんじゃないのか!

それなのに、自分は習慣的に彼の側にいて、しかも妙にプライドを感じている。

自分はもしかして...脳に障害があるんじゃないか!

...

鈴木知得留は車に乗って去った。

突然、おばあちゃんに冬木空の家で昼食を食べると言ったことを思い出した。今帰ったら自分で自分の顔に泥を塗るようなものだ。

鈴木知得留は少し呆れて背もたれに寄りかかった。

携帯の連絡先を見てみたが、一緒に食事できる友達が一人も見つからない。前世の自分の生き方が情けなくなった。

自嘲気味に笑いながら、適当な場所で食事を済ませようと思った時、突然電話が鳴った。着信を見て出る。「もしもし。」

「お嬢様、村上忠です。」

「村上おじさん?」

「鈴木チーフが血圧が高くて今病院に運ばれました。他の人には知らせないでほしいと言われ、お嬢様だけに連絡するように言われました。すぐに来ていただけませんか。」

「分かりました。東京大学附属第一病院ですか?」

「はい。」

「すぐに行きます。」

鈴木知得留は電話を切り、運転手に病院へ向かうよう指示した。

父は以前から血圧が高めだった。前世では血圧が原因で脳出血を起こし、植物状態になってしまい、根岸史子の唆しに乗って自分の手で父の命を終わらせてしまった。