依然として賑やかな婚約パーティー。
鈴木知得留は挨拶を一通り済ませ、隅で佇む斎藤咲子の姿を見つけた。
実は最初から彼女の存在に気付いていた。まるでこの婚約パーティーと何の関係もないかのように控えめにしていて、彼女が斎藤家のお嬢様だということすら忘れられそうなほどで、すべての注目は村上紀文という他家の人物に集まっていた。
鈴木知得留は時々、斎藤咲子の境遇が自分と似ていると感じていた。二人とも母親が傍にいなく、悪意のある人々に主役の座を奪われた。だから彼女に対して、何となく同じ境遇の者同士という気持ちを抱いていた。
彼女は自ら歩み寄った。
斎藤咲子の瞳が僅かに動き、何事にも心を動かされないかのように淡々としていた。
彼女は鈴木知得留を見つめ、シャンパングラスを取り上げられるのを見守りながら、通りかかったウェイターに向かって「白湯をお願いします」と頼むのを聞いていた。
そして斎藤咲子に向かって「白湯の方がいいわ」と言った。
斎藤咲子は微かに笑みを浮かべた。「気付いたのね」
診断書を見たということを意味していた。
「安心して、噂話も余計な口出しもしないわ」鈴木知得留は率直に言った。
斎藤咲子は珍しく「ありがとう」と言った。
「留学するの?」鈴木知得留は何気なく尋ねた。
斎藤咲子は一瞬驚いた様子を見せた。「どうしてそれを?」
鈴木知得留はその時、自分が前世で知っていたことを口にしてしまったことに気付き、「推測よ。こういう時は気分転換に出かけたくなるでしょう」と笑って誤魔化した。
「ええ、しばらく留学するつもり」斎藤咲子も深く考えなかった。
「外に出るのもいいわね」鈴木知得留は頷いた。
すぐに戻ってくることになるとは告げなかった。
「お邪魔しないわ、あちらに行くわ」鈴木知得留は微笑んだ。
あまり親しくない人に突然親切すぎると、良い印象を与えないものだ。
鈴木知得留は立ち去った。
ちょうど冬木空と出くわした。
明らかに、冬木空は彼女を探しに来たようだった。
彼女も遠慮せずに、冬木空の腕に手を添えた。
その時、宴会場が暗くなり、ステージの中央が明るく照らし出された。婚約式が始まろうとしていた。
冬木空は鈴木知得留を連れて、式を見守る場所へと移動した。