第95章 斎藤咲子の物語(1)

東京中央病院。

鈴木知得留は斎藤咲子を病院に連れて行った。

医師は診察を行い、傷を包帯で巻き、後頭部を怪我したため、頭蓋内損傷の可能性を考慮して一日の経過観察入院を勧めた。

鈴木知得留は斎藤咲子に付き添っていた。

斎藤咲子の顔色は一層悪くなり、血の気が全くないほどだった。

鈴木知得留は「何か食べましょう」と言った。

彼女は家の使用人にお粥を持ってきてもらった。父親の死亡の知らせを受けてから今まで、この女性は水一滴も口にしていないだろうし、まして食事なんてしていないはずだと思ったからだ。

斎藤咲子は声を聞くと、瞳を僅かに動かした。まるでこの世界から切り離されたかのような様子で、乾いた唇を開いて言った。「私たちは他人同士です」

つまり、私たちは他人なのだから、そこまでしてくれる必要はないという意味だった。