第178章 私は死んでも冬木心を引き止める

北村忠はそのまま木村文俊を見つめ続けていた。

木村文俊は目の前の女性と楽しそうに話をしていたが、その時、何か敵意のある視線を感じ取り、振り向くと北村忠の姿があった。

パーティー会場で彼は既に北村忠を見かけていた。

東京の有名な財閥グループといえば、あの数人は目立つ存在だった。

彼は目の前の女性に何か言い残すと、立ち上がって北村忠の方へ直接歩み寄った。

北村忠は眉をひそめた。

その瞬間、どこか戸惑いを感じた。

次の瞬間、背筋を伸ばした。

何もしていないのに、なぜ後ろめたく感じる必要があるのか。

木村文俊は北村忠の前で足を止め、率先して挨拶をした。「北村さん。」

北村忠は彼を見つめ、率直に尋ねた。「さっきの女性は誰?」

木村文俊は軽く笑って答えた。「クライアントです。私のデザインが気に入ったと言って、少し話が弾んだだけです。」

「そうなの?」北村忠は彼を見つめた。

「嘘をつく必要はありません。」

北村忠もそうだと思った。

「時間ありますか?一緒に食事でもどうですか。」木村文俊が突然尋ねた。

「今?」

「東京の夜食は美味しいですよ。」木村文俊が提案した。

北村忠は少し躊躇した後、「いいですよ。」と答えた。

なぜ木村文俊が突然食事に誘ってきたのか分からなかったし、彼との間に何か感情的な繋がりができるとも思えなかったが、その瞬間なぜか承諾していた。

二人はそのままパーティー会場を後にした。

お酒を飲んでいたため代行運転手を呼び、二人は同じ車に乗ったが、道中は無言だった。

木村文俊は北村忠を見覚えのある通りへと連れて行った。

かつて彼はよくここに来ていた。よく来ては...冬木心を待っていた。

北村忠は外を見渡した。

木村文俊が先に車を降りた。

北村忠も続いて降りた。

通りは少し雑然としていて、今は夜9時過ぎで、一番人が多い時間帯だった。

木村文俊は北村忠を夜市の小さな焼き鳥屋に連れて行き、二人は路上の席に座った。

周りは人でいっぱいで、大学生たちばかりだった。

恋愛話に花を咲かせたり、兄弟のように親しげに話す声が聞こえてきた。

北村忠はただ静かにそれを眺めていた。

木村文俊はスーツの上着を脱ぎながら言った。「こういう場所、北村さんは慣れていますか?」

北村忠は好きではなかった。