第179章 陰謀(5)真実の誕生

行ってしまった。

行ってしまった!

北村忠は黙って目の前の光景を見つめていた。

周りの人々は依然として彼を見つめていた。

その瞬間、自分が笑い者になったような気がした。

彼は目を拭った。

くそ!

本当に泣いてしまった。

冬木心のためなら、自分が最も嫌な姿にまでなれるなんて!

明らかに、婚約破棄は既に決めていたことで、ただ冬木空の結婚式を待っていただけだった。今夜は本当はもっと潔く、木村文俊に冬木心を愛していないと、婚約破棄は誰のためでもなく、ただ飽きただけだと言えたはずだった。

しかし最後には。

意地悪く木村文俊を気持ちよくさせたくなかった。

木村文俊と冬木心を幸せにさせたくなかった。

そして今。

ついに、ついに冬木心にもっと嫌われることになった。

いや。

もっとというほどでもない。

冬木心の彼への嫌悪は、いつも骨の髄まで染みついていた。

……

一方。

北村忠と木村文俊が去ったばかりの宴会場では。

皆いつものように社交を楽しみ、談笑し、競い合っていた。

鈴木知得留は冬木空の手を引いて宴会場の裏庭へと向かった。

冬木空は口元に笑みを浮かべ、特に魅力的な笑顔を見せていた。

鈴木知得留は真剣な表情で、「何を笑っているの!」

「面白いから」

「何が面白いの?今日はこんなに緊迫した状況なのに、もう少し真面目になれない?」

冬木空は唇を引き締め、浮かべていた笑みを消した。

鈴木知得留は彼の様子を見つめた。

こんなに素直?

彼女の知っている冬木空らしくない。

「どうして先ほど私を置いていったの?」鈴木知得留は気にかかっていた。

「君なら対処できると分かっていたから」

「もし私が酔わされたらどうするの?」

「彼らは君を酔わせたりしない。それに君は自分を守る方法を知っている」

「冬木空、私が甘えないと女として見てくれないの?」鈴木知得留は不機嫌だった。とても不機嫌だった。

自分で身を守れるからって、冬木空は彼女を放っておいていいの?

「じゃあ、甘えてみせてよ」冬木空はその時とても真剣に待っているようだった。

鈴木知得留はハイヒールで冬木空の足を踏んづけた。

冬木空は痛みを感じた。

鈴木知得留は言った、「私をペットだと思ってるの?」

「飼いやすいからね」冬木空は真面目な顔で答えた。