部屋の中。
北村忠は呆然と道明寺華を見つめていた。
道明寺華もその瞬間、少し呆然としていた。
彼女は北村忠を殴るつもりはなかった。さっきは本能的な反応だっただけだ。
彼女は北村忠の鼻血が流れ続けるのを見つめていた。彼は何をして殴られたのか、まだ理解できていないようだった。
道明寺華は振り返ってティッシュを取り、「拭いて」と言った。
北村忠はようやく我に返り、ティッシュを取って鼻を押さえた。そして突然気づいたかのように叫んだ。「道明寺華、手が痒いのか?」
道明寺華は黙っていた。
「言え、なぜ俺を殴った?俺が何をした?」北村忠は道明寺華を睨みつけた。
道明寺華は何も言えなかった。
確かに先ほど北村忠が危険な動きをしたから殴ったのだが、それは彼女が彼の携帯を取ろうとしたから自己防衛したのであって、彼女は携帯を取ろうとした理由を説明できなかった。
彼女は唇を噛んで、死んでも話すまいと決意した!
北村忠はますます怒り出し、歯を食いしばって言った。「道明寺華、お前は俺のことが気に入らないんだろう?!」
「そうよ!」道明寺華も我慢の限界だった。
彼女は一気に北村忠を引っ張り上げた。
北村忠は突然道明寺華の強い力でソファから引き上げられ、ドアの外へと引きずられた。
北村忠は抵抗した。
しかし道明寺華のやつの力は本当に驚くほど強く、彼は全く動けなかった。
彼は道明寺華によってドアの外に放り出された。
「道明寺華、お前は恩を仇で返すのか。俺は一日中付き合ってやったのに、追い出すとは。お前という薄情な奴...」
「バン!」ドアが閉められた。
くそっ!
北村忠は激怒していた。
彼は痛みで死にそうな鼻を押さえ、鼻血が出るのを必死に止めようとした。
エレベーターのボタンを押して、帰ることにした。
エレベーターを出たところで。
正面で鈴木知得留が冬木空を車椅子で押しているのに出くわした。冬木家から帰ってきたようだった。
「なぜここに?」鈴木知得留は驚いた。
冬木邸にいるはずじゃなかったの?!
そうだ。
怒って出てきたんだった。
北村忠は言った。「お前の家の野良犬と遊んでたんだよ。」
「鼻はどうしたの?」鈴木知得留は血の付いたティッシュを見て、少し驚いた様子で尋ねた。
「お前の家の野良犬に殴られたんだよ。」