黒い乗用車が東京の街をゆっくりと走っていた。
青木晴人は金田貫一の話を聞きながら、狡猾な笑みを浮かべた。
彼は金田貫一が言う結婚相手が誰なのか知らなかったが、相手の身分を想像するだけで興奮を抑えられなかった。彼にとって、大切なのは感情などではなく、権力と名誉だけだった。
「じゃあ今、彼女の電話に出ますか?」青木晴人は尋ねた。
「出なさい。まだ婚約を公表する時期ではないから、この女を利用して我々の目的を達成しよう」金田貫一は陰険に言った。
青木晴人は頷いた。
彼は何をすべきか分かっていた。
彼は電話に出た。「もしもし」
「どうしてこんなに遅く電話に出るの?」楠木観月は相変わらず、いつものように高圧的な口調で言った。
青木晴人の表情が少し変わった。
楠木観月はまだ彼を無名の人間だと思っているのか?こんな態度で話しかけてくるなんて。