カフェの中。
林夢は少し気まずそうだった。
自分の顔に泥を塗るのは、さぞ不愉快だろう。
広橋香織も林夢に対して譲歩する様子はなかった。
林夢は言った。「あの時は私たちも若くて、心の欲望を抑えきれずに道徳に反することをしてしまいました。でもそれは私たちがあまりにも愛し合っていたからこそ、抑えきれなかったんです。当時あなたに傷を与えてしまったことは申し訳なく思っています。だからこそ国外に出て、あなたたちから遠く離れることにしたんです。」
「あなたが出国したのは、北村雅が手配したんじゃなかったの?」広橋香織は淡々と言った。
とても穏やかな口調なのに、皮肉が込められていた。
林夢の表情は一層暗くなった。
彼女は実際、広橋香織が北村雅を長年独占できたのは、この女性が思っているほど単純な人間ではないからだと気付いていた。
彼女は言った。「どうあれ、結局私はあなたたちの邪魔をしに戻ってこなかったでしょう?」
「そうね。」広橋香織は頷き、同意するように見えた。
「でもこれだけ長い間、あなたたちはこんなにも上手くいっていないのに、なぜお互いを解放してあげないの?」
「私たちがそんなに上手くいっていないと思うの?」広橋香織は笑った。
始終、実に落ち着いていた。
あまりにも落ち着いていて、林夢は彼女の感情がどこにあるのか感じ取れなかった。
林夢は言った。「もしあなたたちが上手くいっているなら、私が北村雅の側にいられるはずがないでしょう?」
「あなたたち、寝たの?」広橋香織が突然尋ねた。
林夢は一瞬固まった。
広橋香織がこれほど直接的な質問をするとは予想していなかったようだ。
「まあ、実際私は気にしていないわ。当時あなたが北村雅のベッドに潜り込めて、北村雅が私を裏切るようなことをしたのだから、今もそうなるのは不思議じゃない。ただ言いたいのは、当時でさえ北村雅を誘惑できなかったあなたが、これだけ年月が経った今、おそらく北村雅にとってただのベッドパートナーでしかないということよ。確かに私たちも若くはないけれど、あなたが北村雅の傍らでこうして時を過ごしたいのなら、私は本当に何も言うつもりはないわ。」
「何が言いたいの!」林夢の表情が険しくなった。