北村忠は怒りながら、別荘を出て行った。
歩きながら電話をかけた。「写真があるんだが、今夜中に緊急で記事を作ってくれ。トレンドに載せろ。最大のトレンドだ。明日の朝には全国民が知るようにしろ!」
「北村社長、それは無理です。トレンド記事の掲載には社長の承認が必要で、勝手には載せられません」と相手は困った様子で言った。
「私の一存だ。とにかく載せろ。徹底的にやれ!」と北村忠は強く言い放った。
相手は躊躇していた。
「大丈夫だ。後で問題になっても私の責任だ。全て私が引き受ける!」と北村忠は一字一句はっきりと言った。
相手は折れて「はい」と答えた。
北村忠は撮った写真を送信し、さらにテキストも書き添えて、よく編集するように指示した。特に木村文俊を最低な人間として描くように強調した。
相手は全て了承した。
北村忠は電話を切り、再びタクシーを拾った。
明日、明日には木村文俊を徹底的に追い込んでやる。
タクシーに乗りながら、本来なら病院に戻るはずだったが、冬木心が気になって仕方がなく、運転手に方向を変えてもらい、冬木心のマンションへ向かった。
北村忠は冬木心の部屋のドアの前に立った。
冬木郷が家族は馬鹿なことはしないと言っていたが、それでも冬木心が何か考え詰めてしまわないか心配だった。こんな目に遭えば誰だって精神的に追い詰められる。冬木心のような冷静で自制心があり、自分をよく律している人でさえ、木村文俊に傷つけられて生きる気力を失うほどだった。
本当に心配で仕方がなかった。
彼はインターホンを押した。
しばらくして。
ドアが開いた。
冬木心は北村忠を見つめた。
一度帰ったのに突然戻ってきた北村忠を見つめた。
彼女はすでにシャワーを浴び、パジャマに着替えていた。北村忠の突然の来訪に少し驚き、あるいは、少しの喜びも感じていた。
しかし結局。
彼女は自分の弱さや傷つきを利用して北村忠に何かをさせようとは思わなかった。彼らの関係がまた...そんなことは望まなかった。
彼女にとって。
以前は自分が分別を知らなかっただけで、今は北村忠の家庭を壊すようなことはできなかった。
彼らの間には、道明寺華という存在があった。
彼女を傷つけることはできなかった。
「また何しに来たの?」と彼女は言った。