北村雅は車を運転して別荘に戻った。
広橋香織は助手席に座り、ずっと窓の外を見ていた。
北村雅は何度か話しかけようとしたが、広橋香織の様子を見て結局何も言えなかった。
車内は静まり返っていた。
広橋香織は眠るつもりはなかった。
しかし一晩中起きていたことと、北村雅がゆっくり運転していたこともあり、広橋香織はあまりにも眠くて、目を閉じるとすぐに眠りについた。
北村雅が車を別荘の玄関前に停めた時、横を向くと広橋香織が眠っているのが見えた。
彼女は小柄というか、むしろ愛らしい体つきだった。
彼女は助手席に体を丸めて、頭を横に傾け、顔を静かにシートの背もたれに寄せていた。唇は軽く閉じられ、深い眠りについているようだった。
北村雅はずっと彼女を見つめていた。
彼女の唇を見つめながら、口紅のせいだろうか?
なぜこんなにもピンク色が綺麗なのだろう。
この女性は本当に45歳なのだろうか?
本当にそうなのか?
こうして見ていると、彼女の肌は瑞々しく、まるで触れればこわれそうだった。
この女性はどうやってこんなに自分を手入れしているんだ!
北村雅は手を伸ばした。
まるで制御できないかのように、指が彼女の頬に触れたくなったが、触れる寸前で固まってしまった。
自分は取り憑かれたのだろうか?
こんな風にこの女性に近づこうとするなんて。
慌てて手を引っ込め、シートベルトを外して車から降りた。
降りた後、歩き出そうとした足が止まった。
広橋香織を一人で車に置いていって大丈夫だろうか?
このまま寝て風邪を引いたらどうしよう?
首が凝ってしまったらどうしよう?
もし……
もういい。
北村雅は助手席のドアに向かい、開けた。
身を屈めて広橋香織のシートベルトを外し、抱きかかえて寝室まで運ぼうと考えた。
体を近づけた瞬間。
広橋香織は突然目を開いた。
目を開くと、目の前に北村雅の顔が間近にあった。
広橋香織はぼんやりしていた意識が一気に覚醒し、目を見開いて身構えた。「何をするの?」
北村雅は広橋香織と目を合わせた。
寝顔があんなに可愛かったのに。
目を開けた途端、なぜこんなに変わってしまうのか!
その瞬間、彼は意図的に笑みを浮かべ、含みのある笑顔で言った。「何をするか、当ててみる?」
広橋香織は彼を睨みつけた。