第379章 彼女の結婚は北村忠が18歳の時に終わっていた

村上紀文の判決のニュースは、東京中に広がっていた。

誰もが、村上紀文が正当防衛で斎藤咲子を守るために人を殺したと思っていたのに、過剰防衛の罪で3年6ヶ月の刑を言い渡されたことに驚いていた。救われた当の本人が、過剰に人を殺したと断言したことは、誰も予想していなかった。

ニュースのコメント欄には「女は怖い、男なんて目じゃない!」という声が上がっていた。

斎藤咲子がその典型的な例だと。

村上紀文がどんなに冷酷でも、斎藤咲子のことを忘れられないのに、斎藤咲子は忘れると言ったら本当に忘れてしまうのだと。

斎藤グループ社長室。

斎藤咲子は椅子に座り、冷ややかにニュースを見つめていた。

全てのコメントに目を通していた。

彼女が冷酷だと言う声を見ていた。

見続けているうちに。

彼女は携帯を置いた。

立ち上がって窓際に歩み寄り、東京の街並みを一望した。

社長室からの眺めは当然最高のものだった。

斎藤咲子はその瞬間、全てを見下ろすような感覚に襲われ、東京全体が自分の足元にあるように感じた。

しばらくそこに立っていた。

ドアをノックする音が聞こえた。

斎藤咲子は「どうぞ」と声をかけた。

村上紀文の元秘書が、おずおずと入ってきた。

「社長、私は加賀晴香と申します。以前、楠木社長の秘書をしておりました」加賀晴香は自己紹介した。斎藤咲子が自分のことを覚えていないかもしれないと思ったようだ。

斎藤咲子は斎藤グループ本社の社員のほとんどを知っていた。まして村上紀文の側近だった人物なら尚更だ。

「何か用?」と彼女は言った。

「はい。これは村上専務からお渡しするようにと」加賀晴香は斎藤咲子に向かって歩き、USBメモリを差し出した。

斎藤咲子は黒いUSBメモリを見つめ、しばらく手を伸ばそうとしなかった。

加賀晴香は気まずそうにしていた。

「これは村上専務が一週間前に電話で、今日あなたにお渡しするようにと。もう会社には戻らないので、彼のオフィスにあるこの黒いUSBメモリをあなたに渡してほしいと言われました」と説明した。

つまり、村上紀文は自分が刑務所に入ることを予測していたということか。

彼女は喉が動いた。

その瞬間もまだUSBメモリを受け取ろうとしなかった。

加賀晴香が困惑している中、斎藤咲子は突然それを受け取った。