エレベーターが到着した。
北村忠は道明寺華の玄関まで歩いた。
しばらくそこに立ち尽くしていた。
突然緊張して、ドアをノックする勇気が出なかった。
深く息を吸い、手を上げ、インターホンを押した。
しばらくしてからドアが開いた。
加賀さんが慌てて走ってきて、北村忠を見た瞬間驚いた様子で、「坊ちゃま、どうしてここに?」
「母さんはここにいますか?」北村忠は尋ねた。
「奥様はいらっしゃいます。」加賀さんは深く考えずに正直に答えた。
北村忠は予想通り、母がここに来ているのを確信した。
虎と離れて長い時間が経ち、きっと会いたくなったのだろう。
彼は言った、「母を迎えに来ました。」
「お入りください。奥様と華さまは部屋で虎ちゃんの寝かしつけをしています。坊ちゃまも数日会っていないでしょう、中でご覧になってはいかがですか。」加賀さんは親切に言った。
北村忠は頷いた。
靴を履き替え、加賀さんについて中へ入った。
加賀さんは華の部屋に入り、華と広橋香織に向かって言った、「坊ちゃまがいらっしゃいました。」
その時、道明寺華と広橋香織は虎に視線を向けていたが、加賀さんの声を聞いて、二人同時に振り返った。
広橋香織の目には露骨な嫌悪と怒り、憎しみが浮かんでいた。
対照的に道明寺華は、淡々と一瞥しただけで、すぐに視線を息子に戻し、もう北村忠を見ることはなかった。
道明寺華は先ほど広橋香織と北村忠の電話を聞いていた。彼女は北村忠が広橋香織を探しに来たのだろうと推測し、自分とは関係ないと思った。
北村忠は道明寺華を見て、何とも言えない気持ちになった。
たった一週間会っていないだけなのに。
なぜこんなにも疎遠になってしまったのか分からなかった。道明寺華がまるで見知らぬ人のように感じられ、以前のように気軽に挨拶したり話したりできそうにない。
彼は唇を引き締め、母親に向かって言った、「父さんが迎えに来いと言ってます。」
「帰らない!」広橋香織は即座に拒否した、「何度言えばわかるの?私を探さないでって言って。私は一人で十分よ。」
「母さん。」
「誰があんたの母親よ、私はあんたの母親じゃない。」広橋香織は声高に怒鳴った。
北村忠は言葉を失い、「帰らないなら、父さんに電話して迎えに来てもらいます。」
「よくも!」