第481章 老獪な狐(その1)

夜が更けていた。

金田貫一は車の中に座り、住宅街の周りを走り続けていた。

この時、冬木空と鈴木知得留は家に戻っていた。

冬木空は電話を受け、

相手は恭しく言った。「井上明に会いに来た不審者は誰も見かけませんでした。」

「井上明は外出しましたか?」

「いいえ。」

「引き続き監視を続けてください。」

「はい。」

冬木空は電話を切った。

鈴木知得留は傍らで彼を見つめていた。

冬木空は言った。「気付かれたようだ。」

「誰に?」鈴木知得留は眉をひそめ、「青木晴人?」

「彼にそこまでの知恵はない。金田貫一だ。」

鈴木知得留は頷いた。「どうしましょう?」

「時間稼ぎだ。」冬木空は言った。「井上明を彼らが置いておくはずがない。金田貫一は誰かが背後で監視していることを知っていても、必ず井上明を始末しようとするはずだ。井上明の脅しに屈するわけがない。」

鈴木知得留は頷いた。

その一方。

金田貫一は依然として車の中に座り、冷たい声で尋ねた。「車はまだいるか?」

「はい。」

金田貫一は冷笑した。

気付かれたと知りながらもこうして時間を稼ぎ続けるとは、自分が井上明を見逃さないと確信しているということか?

彼は言った。「住宅街へ行け。」

「はい。」

車は住宅街の路地に着き、あるアパートの下に停まった。

冬木空の電話が鳴った。

相手は相変わらず恭しく言った。「一台の車が井上明のいる建物の下に停まりました。」

「私が行く。」

「はい。」

冬木空は電話を切るとすぐに出かけた。

鈴木知得留は冬木空の腕を掴んだ。「気を付けてね。」

冬木空は身を屈めて鈴木知得留にキスをした。「ご心配なく。」

鈴木知得留は心配そうな表情を浮かべた。

冬木空はすでに出て行った。

冬木空にはよくわかっていた。金田貫一は意図的に自分を引き出そうとしているのだと。

もし自分が現れなければ、金田貫一は今夜一晩中付き合うつもりだろう。

彼は急いで車を走らせた。

運転しながら北村忠に電話をかけた。

北村忠はちょうど冬木心と家でテレビを見ていた。