北村忠は熱心に花束を抱え、指輪を手に持って、冬木心のマンションに入った。
冬木心はリビングに座り、スマートフォンを手にしていた。
彼女は自分のニュースを見ていた。ただ黙々と自分のニュースを見つめていた。
半分は同情、半分は疑問の目だった。
彼女は冷笑した。
冷たく笑った。
顔を上げると、北村忠が目に入った。
彼が花束を抱え、指輪を手に持っているのを見た。
その瞬間、冬木郷が見せてくれた北村忠が道明寺華にプロポーズする動画を思い出した。
はっきりと覚えている。北村忠はたくさんの人を呼び、念入りに準備をしていた。そして、道明寺華にキスをする時の彼の熱心さも鮮明に覚えていた。
今、北村忠のこの姿を見ても、少しも興奮はなく、ただ皮肉な気持ちだけだった。
北村忠は冬木心の感情に気付いていないようで、とても興奮した様子で彼女の前まで来ると、片膝をつき、花束と指輪を差し出して言った。「冬木心さん、僕と結婚してください。」