第494章 冬木心、私の忍耐にも限界がある(その1)

冬木心は道明寺華を見つめていた。道明寺華が隣の窓口に座り、銀行の窓口係に500万円の現金引き出しを要求するのを見ていた。

窓口の女性は丁寧に、そのような大金の引き出しには予約が必要だと説明した。

道明寺華は現金の引き出しに予約が必要だとは知らなかった。銀行口座のお金は自分のものではないのか?

彼女は少し困惑した。

窓口の女性は言った。「およそ3日ほどかかります。事前に予約をお取りできますが、突然このような大金を引き出される理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?何か緊急の用件でしょうか?」

銀行は常に優良顧客の引き止めを図る。

道明寺華は隠さずに答えた。「これは他人のお金です。返すつもりです。」

「返金方法は他にもございます。振込みなら安全で便利ですが。」

「口座番号を知らないんです。」

窓口の女性は一瞬戸惑った。

「とにかく、このお金を返さないといけないので、予約をお願いします。引き出せるようになったら連絡してください。」

「承知いたしました。」窓口の女性はこれ以上何も言わず、形式的に優良顧客の記録を取った。「ご連絡先をお願いいたします。現金のご用意が整いましたら、すぐにご連絡させていただきます。」

道明寺華は自分の連絡先を窓口の女性に伝えた。

「かしこまりました。道明寺さん、当行からのご連絡をお待ちください。」

「ありがとうございます。」道明寺華は頷いた。

今すぐ北村忠に返せると思っていた。本当に彼とは一銭の関係も持ちたくなかった。

でも……

あと数日待つしかないか。

彼女は立ち上がって去った。

周りを見回すのが嫌いだったので、冬木心が隣にいることにも気付かず、自分の話が全て冬木心の耳に入っていたことも知らなかった。

冬木心は皮肉っぽく思った。

北村忠は本当に熱意を持って道明寺華の冷たい態度に向き合っているのだな。

彼女は素早く自分の銀行での用事を済ませ、去っていく道明寺華を追いかけた。

「道明寺華。」後ろから声がかかった。

道明寺華は振り向いた。

振り向いた瞬間、冬木心を見た時の嫌悪感は全く隠せなかった。

冬木心もそれを見たが、気にしなかった。

どうせ彼女も道明寺華に対して、もう何の好感も持っていなかった。

道明寺華は言った。「何か用?」

「今、北村忠にお金を返そうとしていたの?」冬木心は尋ねた。