北村忠は親切に車を運転して冬木心を送り届けた。
冬木心は助手席に座り、少し憂鬱そうだった。
北村忠は自ら話題を振った。「冬木家の料理は本当に美味しいね。うちの料理より美味しいよ」
「私の作る料理より美味しいの?」冬木心は少し怒った様子で。
「本当のことを言っていい?」
「本当のことを!」
「確かに冬木家の料理の方が美味しい」
「北村忠……」
「でも気持ちが違うんだ」北村忠は慌てて付け加えた。
冬木心は口元で笑い、それをわざと隠した。
北村忠は言った。「君の家族は実は付き合いやすいと思うよ。お父さんは将棋で一手も譲らないけどね。駒を持ち上げただけで、まだ置いてないのに後悔するのを許してくれなかった。お父さんは本当に狡猾だよ」
「今になってあのじいさんがどれだけ悪いか分かったでしょ」