北村忠は偶然道明寺華と出会った。
道明寺華も北村忠を見かけた。
二人は半月ほど会っていなかった。
突然、お互いがよそよそしくなってしまい、よそよそしさは…
北村忠は今や道明寺華に対して緊張するようになっていた。
その瞬間、一言も言葉が出なかった。
北村忠は道明寺華が一言も話しかけてこないだろうと思っていたが、しかしその時、道明寺華から声をかけてきた。彼女は「虎を返してきたわ」と言った。
北村忠は一瞬固まった。
道明寺華の行動に更に驚かされた。
彼は激しい心拍を抑えながら、無関心そうな様子で「また海外の試合に行くの?」と聞いた。
言っていなかったか。
しばらく試合を休んで、体を治すって。
それとも。
実はJoeにとって道明寺華はそれほどでもないのか。
Joeの心の中では試合が一番大事で、道明寺華の体調が少し良くなっただけで、また試合に連れて行きたがっているのか。
「違うわ、他の用事よ」道明寺華は北村忠に詳しく説明しなかった。
彼女にはわきまえがあった。ある事は信頼できる人にも言えないことがある。まして北村忠は、実際信頼に値しない人だった。
「もしかしてJoeと別れたの?」北村忠は思わず口走った。
自分でも驚くような発言だった。
心の中の思いをそのまま口にしてしまい、全く隠そうともしなかった。
彼は道明寺華をじっと見つめた。
内心の興奮を抑えながら、本当に道明寺華から「そうよ」という言葉を聞きたかった。もしそうなら、もしそうなら…
「違うわ。私とJoeは仲がいいの」道明寺華は否定した。
北村忠は笑った。
自嘲的な笑みを浮かべた。
やはり考えすぎだった。
Joeは道明寺華にこんなに優しくて、道明寺華もJoeのことが好きで、二人は趣味も合うのに、どうして簡単に別れたりするだろうか。
彼は言った。「Joeが新鮮味を失って、君に興味がなくなったのかと思った」
冗談めかした口調だった。
しかし道明寺華は真に受けた。
彼女は言った。「北村忠、Joeはあなたとは違うわ」
北村忠の胸が痛んだ。
そうだ。
Joeと彼は違う、Joeは良い男で、彼はクズだ!
彼は何の感情も見せずに自然に笑って言った。「じゃあ虎を返してきたのは、君とJoeの関係に影響が出るのを心配したの?」
道明寺華が反論しようとした時。