上野和明は鈴木知得留を駐車場まで送った。
今はもう遅い時間で、虎を見るのに最適な時期ではなく、この時間帯は虎と華の休息を妨げることにもなる。
鈴木知得留は車の中に座ったまま、なかなか降りようとしなかった。
上野和明も立ち去るつもりはなかった。
二人とも深い思いに沈んでいた。
鈴木知得留が突然口を開いた。「和明お兄さん、君島博が私に不純な考えを持っているの」
上野和明の表情が明らかに曇った。
鈴木知得留は言った。「私は彼を成功させるわけにはいかないけど、拒否もできない」
「つまり、君は……」
「この機会に彼を殺そうと思っているの!」鈴木知得留は断固として言った。
上野和明は彼女を見つめた。
鈴木知得留は言った。「あなたの力を貸してほしいの」
「わかった」上野和明は頷き、その瞬間「冬木空に知らせておいた方がいいか?」
「いいえ」鈴木知得留は首を振った。「彼は清水紗佳に対処してくれれば十分よ。あの女が主要な敵で、他の人たちはただの下っ端だわ」
「君と冬木空の間は……」
「演技とはいえ、私たちの間の溝が深くなっているのはよくわかっているわ」鈴木知得留は笑った。「時々考えるの、私はどうしてこうなってしまったのかって。本来は家族を守りたかっただけなのに、家族の全てが罪に値することだと気付いて、私は本当に分からなくなってしまった。今の私の存在は一体何のためなのかって!」
「君はやはり諦めきれないんだ」上野和明は核心を突いた。「君は家族が過度な追求のせいで全てを失ったことを知っているのに、それでも取り戻したいと思っている。彼らに生きていてほしい、守りたい、特に鈴木友道を」
鈴木知得留は黙った。
まさにその通りだった。
彼女は鈴木友道が変わってしまったこと、父親のように欲望に支配されてしまったことを知っていながら、それでも彼が改心してくれることを、彼が無事に生きていけることを願っていた。
これは彼女が一生越えられない壁なのだろう。
もう考えたくなかった。
今できること、というか選択の余地がないことは、君島御門を助けて清水紗佳を完全に歴史の舞台から追い出し、君島御門が権力を握れるようにし、そして冬木空が商業管理機構を取り戻すのを手伝って、自分と弟の平安な人生を守ることだった。
彼女は車のドアを開けた。「和明お兄さん、私先に帰ります」