夜は更けていた。
ナイトクラブは相変わらず賑わっていた。
柳田茜は自ら村上紀文に話しかけ、顔を赤らめていた。
当時の村上紀文は誰もが冷たくて近寄りがたい人だと思っていたが、彼女だけは彼の心が実は温かいことを知っていた。
斎藤咲子と鈴木隼人が個室から出てきた時、柳田茜が村上紀文と積極的に話している様子が目に入った。一目見ただけで、柳田茜の村上紀文への思いが並々ならぬものだと分かった。
彼女の瞳が一瞬引き締まった。
鈴木隼人もそれを見て、笑いながら言った。「柳田茜がどこにいるのかと思ったら、ここで村上紀文と昔話をしていたんだね。」
柳田茜の頬はさらに赤くなった。
同級生のほとんどが同年代で、柳田茜も29歳になろうとしていた。
もうすぐ30歳になる女性が、このような恥じらいを持ち続けているのは珍しかった。
斎藤咲子はそれをじっと見つめていた。
柳田茜は少し気まずそうに言った。「もう遅いので、先に帰らせていただきます。皆さんごゆっくり。」
「こんなに早く帰るの?まだ話したいことがあったんだけど…」
「もう遅いわ、私たちも早く帰りましょう。」斎藤咲子は鈴木隼人の言葉を遮った。
鈴木隼人は斎藤咲子の方を向いた。
斎藤咲子は彼に微笑みかけた。
村上紀文は彼らの方を振り向くこともなく、ただ黙々と入り口に立って自分の仕事をしていた。
鈴木隼人は頷いた。「じゃあ、一緒に帰ろう。」
「もう少し楽しんでいかないの?みんなまだ盛り上がってるみたいだけど。」
「家内の命令には逆らえないからね。」鈴木隼人はわざとそう言った。
柳田茜は鈴木隼人の隣にいる斎藤咲子を見て、「お二人は仲が良いですね。」と言った。
斎藤咲子は笑って答えた。「愛情は相互のものよ。誰かが誰かに優しくすれば、その人も優しく返してくれるの。」
「はい。」柳田茜は頷いた。
「遅くなったわ、一緒に帰りましょう。」
柳田茜は頷き、頷いた瞬間に隣の村上紀文の方を見た。
彼女は村上紀文に微笑みかけた。
それは別れの挨拶だった。
村上紀文も笑顔を返した。
斎藤咲子は、村上紀文がもう笑うことはないと思っていた。
柳田茜は村上紀文に挨拶を済ませると、鈴木隼人と斎藤咲子と一緒に出て行った。
KTVの玄関を出ると。