村上紀文は北村家の大門を出たところだった。
冬木郷が彼を呼び止めた。
村上紀文は振り返って冬木郷を見た。
「そんなに急いでどこへ行くの?」冬木郷は少し息を切らしていた。
あまりにも重苦しい雰囲気だったから。
村上紀文はこの瞬間、答えなかった。
彼は言った、「何か用?」
「今でも斎藤咲子のことが好きなの?」冬木郷は率直に尋ねた。
村上紀文は黙り込んだ。
冬木郷がこんなに直接的に聞いてくるとは思っていなかった。
冬木郷も村上紀文の返答を急かさなかった。
静かな空間が、長く続いた。
しばらくして、村上紀文はようやく口を開いた、「僕が好きかどうかは実はそれほど重要じゃない。わざわざ僕に聞く必要はないよ」
「そう?」
「斎藤咲子にとって、僕は彼女に何の影響も与えられない」村上紀文は誠実に言った、「もし本当に斎藤咲子を追いかけたいなら、最も警戒すべき人物は鈴木隼人だと思う。彼は斎藤咲子の最も頼りになる部下で、彼女を深く追いかけている」
「どうしてそれを知っているの?」冬木郷は眉を上げた。
村上紀文は直接答えなかった、「信じるかどうかは君次第だ」
「本当に斎藤咲子と仲直りするつもりはないの?」冬木郷は彼に尋ねた。
ある時期、彼は本当に斎藤咲子が村上紀文と二度と一緒になることはないと思っていた。しかし時間が経つにつれ、逆に確信が持てなくなった。斎藤咲子が本当は何を考えているのか分からなくなった。これほど長い間、誰の男性も近づけないのは、心の傷が深すぎるからなのか、それとも心の中のあの人がまだ去っていないから、他の人が入ってこられないのか。
「僕には資格がない」村上紀文は断言した。
彼には斎藤咲子と一緒になる資格がない。
あまりにも多くの絡み合いがあり、それらが煙のように消え去ることは本当にあり得ない。
そして今、彼が斎藤咲子と短い時間を過ごせているのは、彼女との関係を取り戻すためでもなく、金のためでもなく、ただ以前彼女に与えた傷を埋め合わせたいだけだ。自分ができる最善のことで、償いたいだけだ。
「なぜそんなに自分を卑下するの?」冬木郷は眉をひそめた。
「人は自分を知ることが大切だ」
「もし斎藤咲子があなたにチャンスをくれたら?」冬木郷は再び尋ねた。
「それでもダメだ」村上紀文は確信を持って言った。
冬木郷は彼を見つめた。