村上紀文は北村家の大門を出たところだった。
冬木郷が彼を呼び止めた。
村上紀文は振り返って冬木郷を見た。
「そんなに急いでどこへ行くの?」冬木郷は少し息を切らしていた。
あまりにも重苦しい雰囲気だったから。
村上紀文はこの瞬間、答えなかった。
彼は言った、「何か用?」
「今でも斎藤咲子のことが好きなの?」冬木郷は率直に尋ねた。
村上紀文は黙り込んだ。
冬木郷がこんなに直接的に聞いてくるとは思っていなかった。
冬木郷も村上紀文の返答を急かさなかった。
静かな空間が、長く続いた。
しばらくして、村上紀文はようやく口を開いた、「僕が好きかどうかは実はそれほど重要じゃない。わざわざ僕に聞く必要はないよ」
「そう?」
「斎藤咲子にとって、僕は彼女に何の影響も与えられない」村上紀文は誠実に言った、「もし本当に斎藤咲子を追いかけたいなら、最も警戒すべき人物は鈴木隼人だと思う。彼は斎藤咲子の最も頼りになる部下で、彼女を深く追いかけている」