番外050 彼は斎藤咲子という一人の女性だけを望んでいる(二更)

村上紀文は目の前の閉まったドアを見つめていた。

彼は感情を抑えていた。

体が震えるほど抑えていた。

柳田茜は恐る恐る彼の少し険しくなった表情を見つめ、その瞬間、勇気を出して近づき、両手で彼の手を握った。彼女は詰まった声で言った。「村上紀文、あなたに責任を取ってほしいわけじゃないの。お母さんから聞いたけど、この薬はあなたの体に副作用を起こすって。発散しないと危険なのよね。約束するわ、本当にあなたにしがみつくつもりはないの。私は全部自分の意思でやってるから……」

村上紀文の体は震えていた。

自分の意思で。

彼女は自分の意思だと言った。彼が彼女に触れても、彼に責任を取らせるつもりはないと。

彼の額には汗が浮かんでいた。

彼は柳田茜の言葉に心を動かされていた。

今、彼の体の中にはライオンが住んでいるようだった。極限まで飢えた大きなライオンが、その飢えを満たすための肉を切実に求めていた。

彼は目を凝らして目の前の柳田茜を見つめた。

彼の両目は真っ赤で、全身も赤くなっていた。

彼の目に宿る欲望は、まったく隠されていなかった。

柳田茜も彼の熱さを感じ取ることができた。

彼女は近づき、両手を彼の首に巻きつけ、つま先立ちになって、再び目の前の村上紀文にキスをしようとした……

「ガン」その瞬間、村上紀文は彼女を押しのけた。

やはりダメだった。

斎藤咲子以外は、誰もダメだった。

彼は柳田茜が床に強く倒れたことも、彼女が悲しげに泣いていることも気にせず、大股で寝室のドアに向かい、全力を尽くした。

この時の力は本当に驚くほど大きかった。

たとえその瞬間、渡辺菖蒲が外から鍵をかけていたとしても、村上紀文はそれをこじ開けた。

渡辺菖蒲は外で、村上紀文の今の恐ろしい姿に驚いていた。

彼女は振り返って床に倒れている柳田茜を見た。明らかに誘惑に失敗したようだった。

彼女は村上紀文に向かって言った。「あなた、頭がおかしくなったの?今のあなたの状態で、どうして彼女を拒むの!」

村上紀文は渡辺菖蒲をにらみつけた。

渡辺菖蒲は息子を全く恐れていなかった。彼女は言った。「あなたは初めてじゃないでしょう。何を気取ってるの。すぐに戻って柳田茜とベッドに入りなさい!」

「母さん、本当に殺したくなるよ」村上紀文は歯を食いしばって言った。