混乱

「ベアトリクス、大事な話がある」

私が自分の服とフェイス・ヴィエンヌの荷物をまとめ終えた時、お父様がドアから現れた。その深刻な表情に私は突然不安になった。お父様の端正な顔にそんな表情を見るのは初めてだった。

「どうぞ入ってください、パパ。荷造りが終わったところです」

最後の必需品をスーツケースに詰め込んで閉じた。背後でドアが開き、閉まる音がした。お父様の方を振り向くと、フェイス・ヴィエンヌが寝ているベビーベッドの横に立ち、手をしっかりと握っていた。

最初は何も言わなかった。ベビーベッドの中で楽しそうにもがいている孫娘に視線を釘付けにしていた。考え込んでいるようだった。おそらく、知らせを伝える前に適切な言葉を探していたのだろう。

「パパ?大丈夫ですか?」

お父様は私を見た。疲れているように見えた。「大丈夫だよ、ベアトリクス」と笑顔を見せながら言った。嘘をついているのは分かった。言葉は必要ない。表情が真実を物語っていた。

おそらくパパは、明日の朝にフェイス・ヴィエンヌと私が出発することを心配しているのだろう。屋敷を離れるのは初めてだ。学業を終えて永住するまでには4年もかかる。

「ベアトリクス、あなたの出生証明書のことだ。家族の弁護士があなたの名前をベアトリクス・クロフォードに正式に変更するまで、しばらくの間フェニックス・デ・アモーレという名前を使うことになる」

不安が込み上げてきた。ベッドから飛び上がってお父様と目を合わせた。「フ、フェニックス・デ・アモーレですって?」

「ああ、それがあなたの本当の名前だ」と彼は答え、私の見開いた目を見つめた。感情を隠そうとする努力が感じられた。

「まあ、パパ!私探偵さんが私の正体を突き止めてくれて本当に嬉しいわ。他に知っておくべき重要なことはありますか?」期待に目を輝かせながら、返事を待った。

「そう多くはないよ、ベアトリクス。あなたはビジネスホテルでホテル係として働いていた。父親代わりの男性は慢性疾患で1年前に亡くなり、母親も今年同じ病気で亡くなった。これが私立探偵から得た情報だ」

情報を消化しながら、深いため息をついた。お父様は何も言わず、計算された表情で私を見つめ続けた。眉をしかめ、混乱した。お父様は全てを話していないような気がした。