暑い、すごく暑い…
円香は体の不思議な熱さで目を覚ました。咄嗟に目を開けたが、周りを見渡しても目の前は真っ暗で、自分がどこにいるのか分からなかった。
「君だったの?!」上から突然かすれた荒々しい声が聞こえてすぐ、首が冷たくて大きな手に掴まれた。「私に薬を盛りやがったな?」
この声は……男の顔は見えなかったが、骨の髄まで刻み込まれたこの声を聞いただけで、侑樹だと分かった!
彼女は襲われて、気がついたらここにいた。何もしていないし、彼とこれ以上関わりたくもなかった!
円香は何かを言いようとしたが、口を開いた途端、制御できない喘ぎ声が漏れ、一言も言い出せなかった。
円香は恥ずかしさと怒りを感じた。体の熱が理性を燃やし尽くしている。すぐに自分を制御できなくなることかもしれない。早くここから逃げ出さないと……
彼女は手を上げて侑樹を押しのけようとしたが、力が入らないから、侑樹からすれば、その柔らかい仕草はまるで彼を誘っているように見えた。
男の呼吸はますます荒くなった。彼は目を赤くし、手の血管を浮き出し、歯を食いしばって怒鳴った。「誘ったのは君の方だ!」
侑樹から激しくキスが降ってきた。
二人は一晩中狂おしく愛し合った……
…
円香は夢を見た。久しぶりに見た、甘くて幸せな夢。
二十歳の誕生日、侑樹と海辺で祝った。彼女は目を閉じ、燃えているろうそくの前で誕生日の願い事をした。
願いは毎年同じで、侑樹と結婚することだった。
目を開けてろうそくを吹き消した時、空にドローンが現れた。青空を飞んでしばらくすると、白い煙でこのような文字が形作られた——結婚してくれ。
すると黒いスーツを着た侑樹が、花束を持って颯爽と彼女に寄ってきて、彼女の前で片膝をついた。
その目には深い愛情に満ちていた。彼は低くて心地良い声で告げた。「円香、俺と結婚してくれ。一刻も早く、君を永遠に僕だけのものにしたいんだ。」
彼女は喜びに満ちて「はい」と答え、侑樹に手を差し出した。
しかし次の瞬間、侑樹の端正な顔は暗雲に覆われたかのように沈み、その瞳の奥底は無限の冷たさと嘲りに満ちていた。彼は薄い唇を開き、残酷な言葉を一言ずつ吐き出した。
「君に飽きたから」
「もう二度と俺の前に現れるな!」
円香は体を震わせ、咄嗟に目を覚まし、思わず大きく息を吸った。
あれから二年が経った今でも、まるで悪夢のようなあの光景と彼の言葉に魘されていた。
彼女は二回深呼吸をして、起き上がろうとしたが、体の痛みと疲れが一気に襲ってきて、思わず呻き声を上げてしまった。
だがその痛みに構う暇もなく、昨夜の記憶が堰を切ったように脳裏に押し寄せてきた。
侑樹と……
慌てて視線を転じると、その見慣れた端正な顔が目に飛び込んできて、彼女は一瞬息を飲んだ。
全て悪夢なだけだったと願っていたのに……
円香は目を閉じて。今は取り留めのない考えに耽っている場合ではない。何よりもまず、ここから抜け出さないと!
彼女は必死に心を落ち着かせ、そっと起き上がり、足を床につけてベッドから降りようとした時、突然手首を掴まれた。
次の瞬間、天地がひっくり返ったような感覚と共に、彼女は再びベッドに投げ出され、両手が顔の横に押さえつけられ、動けなくなった。
顔を上げると、侑樹の険しい黒い瞳と目が合った。その瞳の奥には露わにした嫌悪と殺意が満ちていた!
その眼差しは……昨夜、彼女が彼に薬を盛って、何かの利益を得るために彼と寝たと確信したのか?
円香の心には、不安ととめどない恐怖が湧き上がってきた。
侑樹はどれほど残酷で無情なのか、そして彼の手段がどれほど容赦ないものか、彼女は身をもって知っていた。かつて彼を陥れようとした者の末路も……彼女は痛いほど分かっていた。
思い出しただけで、円香は思わず身を震わせた。
しかし今になっては、恐れてもどうにもならない。円香は下唇を強く噛み締め、必死に冷静さを保て、急いで言葉を整理して、侑樹にどう説明するか考えた。
「円香、金のためなら何でもできるのか?何だ?一回俺に良い値段で自分を売れたから、二回目も行けると思ったのか……」
「パシン!」
鮮やかなビンタの音が、侑樹の聞くに堪えない言葉を途切れさせた!
円香の手はまだ空中で激しく震えていた。彼女の顔は血の気引き、怒りで胸が激しく上下していた。
男の端正で白い顔に、赤い痕が浮かんだ。
まさか円香が手を出すとは思わなかったのか、侑樹は唖然とした。そして、彼は唇の端を吊り上げて笑った。笑っているはずなのに、周りの温度が氷点下にまで下がったようだった。
「園田円香、死にたいのか?」
二年前、彼が秘書を通して彼女に伝えた言葉は十分傷つくものだと思っていたが、この言葉を聞いて、さらに身を切る思いをした。
彼からしたら、彼女はそんな女だったの?
だから人前で婚約を破棄し、海外に行くしかないところまで彼女を追い詰めた。
悔しさが湧き上がってきて、彼女の目の前が霞んできた。
ここ数年、外国で生きていくために、どんな酷い言葉も聞いてきた。それらを笑い飛ばすこともできた。でも侑樹は昔、大切にしてくれて、深い愛情を持って甘やかしてくれた。彼の一言一句が、すべて心に染み入るほど甘かった。
過去の美しい記憶が、逆に現在を残酷に映し出した。
この二年間、外国で生きていくために、彼女はすでに心の壁を築き上げた。もう何を言われても簡単には傷つかないと思っていた!
しかし、侑樹のたった一言で、その壁は脆く崩れ去った。
円香は必死に目を瞬かせて涙を堪えた。唇の端を吊り上げ、嘲笑うような笑みを浮かべた。
彼女は機械仕掛けの人形のように口を開いた。「江川さん、それは誤解だ。私は誰かに薬を盛られて気を失い、気がついたらここにいたんだ!」
「江川家の旧邸の前で襲われたから、防犯カメラで確認できるはずだ。病院で検査を受けて、薬を盛られたことも証明できるよ。君が薬を盛られたことは、私とは何の関係もないわ!」
「これは単なる偶然だ。君と寝たいなんて思っていないし、君のお金なんか欲しくないよ!」
一瞬の間を置いて、円香は唇をさらに吊り上げて冷たく笑い、侑樹を蔑むように上から下までしげしげと見た。赤い唇を開き、一言ずつはっきりと告げた。「江川さんは自分を買いかぶり過ぎだじゃないか。ベッドのテクニック、最悪だったわ。体を売ろうとしても、絶対君には売りたくないわ!」
「この園田円香は、どんなに卑しくなっても、二同じ轍を踏まないよ!」