第153章 この一歩を踏み出す

江口侑樹は体の両側に垂らした手を強く握りしめ、呼吸も少し荒くなった。

園田円香はコップを持ち上げ、口元まで運んだが、動きが止まった。彼女は無意識にコップを握りしめ、目の奥の葛藤はますます強くなっていった。

およそ5分が過ぎ、彼女は目を閉じた。

深く息を吸い込んで、再び目を開けると、その瞳には決意が宿っていた。彼女はコップを置き、口の中の薬を手のひらに吐き出し、そばのゴミ箱に捨てた。

江川おばあさんはずっと孫を抱きたがっていたし、江口侑樹も子供が欲しがっていた...彼女は江口侑樹と新たな人生を歩むことを決めたのだから、これからの日々を大切に過ごすのだから...この一歩を踏み出すべきなのだろう?

他の全ての要因を置いておいて、心に問いかけてみる。彼女は江口侑樹との子供が欲しいのか?

答えは間違いなくイエスだった!

彼女は江口侑樹が好きで、昔から彼と結婚したいと思っていた。当然、結婚したら二人の赤ちゃんを産みたいとも考えていた。

2年前、彼女と江口侑樹はすれ違ってしまった。今やっと二人は一緒になれたのに、何を躊躇う必要があるだろうか?

園田円香はついに自分を説得し、ティッシュを取って手を拭き、残りの避妊薬をすべてゴミ箱に捨てた。

手を離した瞬間、心の中のすべての葛藤や不安も一緒に捨てられたような気がした。

重荷から解放されたような感覚。

背後から足音が聞こえ、次の瞬間、見慣れた腕に抱きしめられた。園田円香は一瞬驚いたが、江口侑樹だと気づき、横目で彼を見て「どうしたの?」と尋ねた。

江口侑樹は後ろから園田円香を抱きしめたまま答えず、ただ無意識に腕に力を込めて、まるで彼女を自分の体の中に溶け込ませたいかのようだった。

「侑樹?」園田円香はますます困惑した。

彼があまりにも強く抱きしめるので、彼女は息苦しくなってきた。「痛いよ!」

江口侑樹は少し力を緩めたが、まだ彼女を抱きしめたまま、顎を彼女の肩に乗せ、極めて低い声で言った。「なんでもない。ただ抱きしめたくなっただけ。」

彼女は知らなかった。彼女が避妊薬を吐き出した時、彼がどれほど嬉しかったかを。

彼女が彼の子供を産もうとしているということは、彼女が言った通り、もう離婚を考えていないということ、これからずっと一緒に、長く幸せに暮らしていくということの証明なのではないだろうか。