第155章 全財産を託す

園田円香はその呼び方を聞いて、瞳に驚きと戸惑いが浮かんだ。彼女は振り返って試着室の店員を見た。「誰を呼んでいるの?」

店員は園田円香の顔を見て一瞬固まったが、すぐに反応して慌てて説明した。「江川...江川夫人、申し訳ありません。人違いでした。」

そう言って、深々と頭を下げた。「本当に申し訳ございません。」

園田円香は人を困らせるような性格ではなかったし、ただの人違いだったうえに、こんなに慌てて謝られては、優しく「大丈夫よ」と言った。

店員はようやく安堵の表情を浮かべ、取り入るように笑って「江川夫人、お優しい方ですね。では、試着のお手伝いをさせていただきましょうか?」

「自分で着ます」

店員は服を掛けながら言った。「では、外でお待ちしております。何かございましたら、お声がけください」

「はい」

店員は軽く会釈をして出て行き、ドアを閉めた。

ドアが閉まるとすぐに、店員は思わず胸に手を当てた。まるで九死に一生を得たかのように。

...

園田円香はまず薄緑色のドレスを試着した。着てから全身鏡の前に立って自分を見つめると、薄緑色が肌をより一層白く見せていた。オフショルダーデザインが、細長い首筋と直角の肩、そして繊細な鎖骨を全て露わにし、優美なラインは優しさの中にほんのりとした色気を漂わせていた。

彼女は長らく念入りにお洒落をしていなかったが、今こうして綺麗なドレスを着て、綺麗な自分を見つめていると、気分もますます良くなってきた。

鏡の前で小さくクルッと回って、江口侑樹はどう思うかしらと考えた。

彼女は軽く唇を噛んで、更衣室を出てVIPルームへ向かった。

園田円香が入っていくと、江口侑樹は背を向けて窓際に立ち、電話をしていた。彼女は軽く咳払いをして、自分が来たことを知らせた。

江口侑樹は横目で彼女を一瞥したが、まるで見なかったかのように、また背を向けた。

「......」

園田円香の期待に胸を膨らませていた気持ちは、まるでジェットコースターのように一気に底まで落ちた。

この反応は...自分の着こなしが良くないということ?見るのも嫌だということ?

園田円香は自分が綺麗に着こなせていると思っていたのに、急に自信を失い、思わず更衣室に戻って着替えようと身を翻した。

「どこへ行く?」男の声が突然響いた。